2021/11/24 09:00
長野県のワイシャツメーカー フレックスジャパン株式会社代表取締役矢島さん。
ワイシャツメーカーである会社で、ジャケットや女性用ビジネスシャツ製造を始め、さまざまな事業を展開され、近年ではSDGsへの取り組みも注目を集めています。その根底には、ご自身の体験やさまざまな人との出会いを通じて感じた気づきに根ざした想いや哲学がありました。
インタビューを通じてその想いを紐解いていきます。
- ベルリンの壁の崩壊とSDGs -
ーフレックス・ジャパンさんのSDGsの取り組みについてお聞かせください
一番浅いレベルの観点からいえば、SDGsに取り組み始めたきっかけは、そのほうが商売上”得”だと思ったからなんですね。
お取引先の中でも、総合スーパーさんなど、エコに対して関心度が高い方々が現れてきました。
教育現場でも、子どもたちが環境教育を受け、エコロジーを意識した商品に消費者の皆さんが誘導される。そうなると総合スーパーさんも地球環境に配慮した商品を作り始めるという方向性にが動いていきます。これが一番直接的な話ですね。
ただ、形として商売上のこととしてやっていても、そこに気持ちが入ってくることがありました。
私にとってのその原点は、1989年にあるんです。
当時私は今とは全然違う仕事をしていたんです。防衛装備品、戦闘機、ミサイルを扱う仕事をしていまして、取引先にヨーロッパの防衛総合大手の会社さんがいました。
そこの部長さんと仕事をしていた時に、ベルリンの壁を撤廃すると東ドイツが表明し、東西ドイツが統一しました。
それは西欧・資本主義国と共産圏の冷戦構造の崩壊を意味します。
あと半年で東西ドイツが一緒になるというときに、私はドイツ人のその部長さんに聞いたんです。
「本当のところどんな気持ちなの?」と。
ドイツ人としては東西一緒になることはの嬉しいよね、と。
ただ、軍事的緊張が薄くなるわけですから、防衛総合大手、軍需産業の会社にとってはマイナスだよね。そのことについて、どう思うの?と聞いたら
「100%嬉しい」
といったんです。驚きました。
なので、「商売はどうするつもりなんだ?」と聞いたんです。
そしたら彼は
「21世紀はどういう世紀になると思っている?
21世紀は老人問題と環境問題の世の中になる。環境に対する対応策を考えたらリサイクルが入ってくるだろう。リサイクルのシステムの問題は高コストになるってことなんだ。
なぜ高コストになるか。それは人間が分別するから。うちはそれに対策するビジネスを考えている。ミサイルが攻撃対象を分別している人工知能を、リサイクルの分別に応用していく。それが21世紀のテーマになるから、もう研究し始めている。だから大丈夫なんだ」と言ったんです。
その時気づいたのが、この人が仕事をしているのは社会課題のためなんだな、と。
強い印象を持ちました。
結局企業っていうのは、何かの役に立たなければ干されます。綺麗事じゃなくて、世の中に必要とされていなければ、当然ですよね。
必要とされていなくても儲けることはできるが、永続するわけがありません。
日々においては目先でどう利益をあげるのかを一生懸命考えていますが、私はその時の彼の言葉がとても印象に残っているんです。
- 「”もったいない”から捨てられないわけじゃないんですよね」 -
これから本格的にリメイク分野に取り組みたいと考えています。
これは今までの話と全く違い、サステナブルやSDGsは関係なくて、私個人としての痛痒から来ています。
例えば、今靴下に穴が開くと履くのをやめて捨ててしまい、新しい靴下を買いますよね。
昔なら「母さんが夜鍋をして・・・」でしたが、そこまではできない。
でも自分としては、靴下を捨てるのが嫌なんです。シャツとなれば、もっと捨てられない。捨てられない自分をなんとかしたいんです。
おばあちゃんやお母さんから着物をもらった時、着られますか?
自分自身の愛着があるものや、肉親が残したものを処分すると言う、心の痛痒を取り除きたい。手元に置けるものを作り直したい。
それを本格的にやろうかなと思っています。
それから、なんで自分の中にそもそも捨てることに痛痒があるんだろうな、と疑問に思ったんです。
私は八百万(やおろず)の神や付喪神、全てのものに神が宿るという思想の国で育っている。小さいうちは、とにかく”もったいない”という教育を受けました。
でも、”もったいない”から捨てられないわけじゃないんですよね。
すべての”もの”に神が宿る、魂が宿るように感じてしまう国で生まれ育ったからかもしれないと思っています。
使えなくなったら捨てて新しいものに買い換えればいいやと思えない自分がいて、同じような想いを持っている方にとって、このリメイクが楽しいサービスになれば、と。
そういう想いが、世の中に広がっていけばいいな、と考えています。
ーヨーロッパでは家や宝石などをビンテージとして、代々継いでいくものという文化もありますよね
もちろんヨーロッパにも大事に手を加えて継いでいくという文化がありますが、実は着物はその最たるものなんです。代々作り直して、縫い直して着ていく。日本も元々そうだったんですよ。
そして、ヨーロッパでもその文化が今も残っているかどうかというと、そうでもない。
昔はものが潤沢ではなかったので、大事にという意識がありましたが、ものを作る能力が格段に高くなったので、ものが溢れてしまっている。その象徴がファストファッションですよね。
それを踏まえた上で、”もったいない”とか”地球環境に悪い”といくら言っても、その考えに響く人たちがどれくらいいるんだろう、と。
それよりも個人としての痛痒、モノを捨てることに感じる痛み、困ったことを事業化した方が伝わるんじゃないかなと思っています。
- 誰かが考えてくれるだろうだと、変わらない -
ーBRING(旧:FUKUFUKUプロジェクト)としてシャツのリサイクルを始められたという日経の記事を拝見しました
はい。衣料品を回収して、ポリエステルの原材料を取り出し、もう一度ポリエステルの樹脂に再生しています。
BRING(旧:FUKUFUKUプロジェクト)の前身として、エコログというリサイクリングネットワークがありました。
エコログの発起人の方は、広島のアパレル会社の社長さんだったのですが、始まった当初から声をかけて頂いていました。ドイツに同じようなシステムがあるので、日本にも導入したいということで、お話をもらって。
セブン・イレブンさんやイトーヨーカ堂さんなど制服系が衣料品として回収しやすかったので、スタートしたそうです。回収した衣料を糸に作り直して、エコバッグで売っていたと聞いています。
でもこの事業を始めるのは、一筋縄ではいかなかった。
一度使った衣料を回収するのは、産業廃棄物扱いになるんですね。
産業廃棄物になると、移動させるためには自治体の許可がいる。再生工場まで運ぶためには、広域認定を取らないといけない。その許可を出すのは環境庁だったんです。
そういったさまざまな認定や許可を取るのは、本当に大変な仕事だったと思います。
ですが、取れないことには事業のキックオフができない。
ある時「許可が取れたのでキックオフミーティングをします」と声をかけてくださいました。
ユニフォームやシャツ、スーツ屋さんが東京に集まって、キックオフのMTGをしたんですね。2時間ほどの会議でしたが、その時の社長さんはとても嬉しそうでした。
「ようやく広域認定が取れた!」と。
そして、その1週間後に亡くなられたんです。
私たちにはわからないご心労があったんだろうなぁ、と。
そんな事情も知っているので、なんとかこの事業を軌道に乗せたいと思っています。
こういった事業の課題は、とにかくコストなんです。経済的に成り立つかどうかということ。
リサイクルをしてものを作るよりも、ゼロから作った方が安いというところに、構造上の問題がある。
高くてもあえてリサイクルをしてつくられた製品がいい、そのことにお金も出すという文化・流れを作り上げないと、回っていかないんですよね。それが1番の課題です。
誰かが考えてくれるだろうだと、止まらないじゃないですか。
どうしたら消費者の消費行動を変えるきっかけを作れるか、メッセージを送れるかが、今後の課題ではないかと考えています。
Interview by Yuka Yanagisawa/Text by Azumi Nozaki